【小説】「妖怪アパートの幽雅な日常」妖怪と人間が住まうアパートが大好き過ぎて年1で読み返しているアラサー

日常
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皆さんこんにちは、ご時世的に大半引きこもっているアラサーフリーターのmamuです。

今日は私が愛して止まない小説、妖怪アパートの幽雅な日常を紹介したいと思う。

妖怪・幽霊…そんなものは存在しないと言わずに聞いて欲しい。

ジャンルは現代ファンタジー、児童書に分類される。

しかしその内容は子供から大人まで、読む年代によって感じ方が変わる不思議な作品なのだ。

児童書故に活字に不慣れでもスラスラ読めてしまう。

2003年に講談社から発売されたこの作品、出会いは学校の図書室だった。

当時から読書好きだった私は、内容も知らずにそのタイトルに惹かれた事を鮮明に覚えている。

”妖怪”…子供時代の私にとってこれ程、怪し気でくすぐられるものは無かった。

更に、「幽雅」と当て字された部分と独特なイラストにも惹かれて、即刻借りる事にした。

これが私とこの作品との出会いである。

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あらすじ

主人公、稲葉夕士(いなばゆうし)中学一年生の春の事、交通事故で両親をいっぺんに失ってしまった。

本当に突然の事だった。

その後、叔父叔母夫婦の元へ引き取られるも、そこには歳の近い従妹がいた。

この従妹からは冷ややかな視線を浴びせられ、無視をされる。

また、叔父叔母夫婦は夕士を腫物のように扱う。

夕士は迷惑をかけている負い目、生活の負担、従妹への気遣い等で息苦しさを感じたまま成長し、中学三年生。

この頃には夕士はすっかり心を武装して「早く大人にならなければ」と考えるようになっていた。

この生活からの脱出、そして両親に顔向けしたいという思いから一人立ちする事を決意。

目指したのは商業高校。

高卒での就職率が高いと有名であり、尚且つ全寮制だったのだ。

春にはこの家を出て行ける。

夕士は叔父叔母夫婦を嫌っていた訳ではないが、息苦しさから脱出したかった。

しかし見事合格を勝ち取った二日後、新生活に胸弾ませていた夕士の目に飛び込んだのは、入寮する筈だった寮が全焼してしまうというニュースだった。

絶望の淵で何件も不動産会社を巡るも入居できる部屋は見付からず、とうとう公園のベンチに座り込んでしまう。

途方に暮れてうつむいた夕士に「あの店へ行ってみなよ。いい部屋がきっとあるよ。」と子供の声が。

しかし顔を上げた先に子供は居らず、見えたのは古びた『前田不動産』だった。

藁にも縋る思いで扉を開いた夕士。

前田のおじさんは夕士の境遇に同情し、ひとつの部屋を紹介してくれた。

駅から徒歩10分・トイレ風呂は共同だが、家賃・光熱費・水道代・賄い付きで二万五千円の寿荘。

美味しい話には裏がある。

「出るんだコレ(オバケ)が」前田のおじさんは言った。

夕士は予想外の発言に若干の疑念を抱くものの、ありがたくその部屋を紹介してもらう事にした。

そこが本当に妖怪・幽霊なんでも出てしまう妖怪アパートだとも知らずに、不思議な日常に足を踏み入れてしまうのだ…。

魅力的な登場人物

この作品の魅力は何と言っても個性豊かな登場人物である。

落書きのような顔をしているのに、エログロ作品を生み出し熱狂的なファンを持つ詩人。

除霊師見習いの大食い女子高生。

旅好きで喧嘩上等の画家。

異次元の物まで扱う骨董品屋。

魔法や怨念が籠った本まで取り扱う古本屋。

年齢不詳の美男子霊能者。

妖怪アパートに住む住人は、人間だけでも実にバラエティーに富んでいる。

しかしそれだけでは無い。

かわいい仕草で癒してくれる幼児と犬は幽霊だし、豪快に裸も見せてしまうオッサン美女も幽霊。

やっと普通のサラリーマンに出会えたと思ったら、人間に憧れて社会に溶け込む妖怪だったりする。

そして何より、主人公の稲葉夕士。

この物語は夕士の成長物語なのだ。

『早く大人になりたい』そう考えて今まで必死に生きて来た主人公が人生の先輩から、はたまた妖怪や幽霊から様々な事を学ぶ。

例えば、作品の一場面にこんなのがある。

夕士の事を『家族がいなくて一人暮らしのかわいそうな少年』『独りぼっちでやけになって非行に走るかも』と決めつけて、辞書を譲ってきたり凹んでもいないのに励まして来たりする人物が登場する。

これに夕士は違和感を抱き、アパートの大人たちにその事を相談すると「不器用なんだよ。真面目なだけにいろんな価値観をみにつける事ができなかったのさ。」と返答される。

その内、人間に憧れている妖怪サラリーマンが、勤めている会社に同じような同僚がいたと口を開いた。

その同僚は優しい人間で、『人に優しくしなきゃ』という気持ちから『優しくすることが目的』になってしまったと話す。

その同僚は新人に必要以上にかまい、良かれと思い新人の仕事を奪ってしまい結果成長を妨げてしまった。

「最初から相手には無理だと決めつけてフォローしてしまう、それが親切だと思っているんだなぁ。」

つまり人の一面しか見ようとせず、自己の固定概念のみで判断し、物事を決めつけて空回った親切をする。

夕士はこれに困惑していたのだ。

これを詩人は「地獄への道は、善意で舗装されている。」と言った。

何ともシンプルかつ感慨深いセリフで私は大好きだ。

そして住人たちは続ける。

そういった人は優しい人には違いない、所謂『善人』だ。

「善人だから人は惑わされる、善人だから否定できない。否定することは悪意になってしまうから。誰も進んで悪人なんかになりたくない。」と…。

人生とは人それぞれで、環境も経験も背負う物も違う。

時間が経てば自分自身でもまた変わってくる。

だから私には刺さって、あなたには刺さらないという事もあるだろうけど、他にもこんなセリフがある。

「この世には隣にいても手が届かないこともある。まったく関係のないところから手を差し伸べられたりもする。それが縁ってやつだね。」

「自分の思いを口にして、人に理解してもらう事はとても難しい。」

「夢を見るんだ!限られた時間の中に無限の可能性がある!」

これらの他、沢山の言葉が人生の先輩である大人から、そして長い時を生きて来た妖怪から…様々な境遇で生きて来た登場人物たちから夕士に伝えられる。

夕士はそんな大切な会話の中で学んで考えて進み、立ち止まって悩んでは進んで行く。

多種多様な者たちと触れ合う事で自分の世界を広げて行く夕士の姿は、私自身が人生に落ち込んだり悩んだ時に勇気をくれた。

年齢によって感じ方が変わると話したが、思春期の学生さんなんかは一部説教臭いと感じるようだ。

私はそう感じずに読んでいたが、歳を取って読み返すと同じセリフでも違う意味を感じたりする。

また、何とも思っていなかった場面で胸打たれ、ジーンとしてしまったりもする。

この作品は人生で落ち込んでいたり、悩んでいる時こそ読んで欲しい。

きっと何処かにあなたの胸を打つセリフがあって、背中を押してくれる筈だ。

物語の世界観

妖怪アパートの幽雅な日常というタイトル通り、主人公の夕士は妖怪・幽霊のたまり場である寿荘で過ごす事になる。

今まで当たり前だと思っていた常識が次々と崩されて世界を広げて行くのだが、その拠点となるアパートの雰囲気が実に良い。

窓にステンドグラスがあしらわれた木造2階建てのアパートには縁側があり、庭には四季折々の情緒が漂う。

細かい季節の移ろいや、何か分からない発行体が夜の庭を漂っている描写は幻想的で美しいのだ。

私が季節や風景の描写が好き、という個人的趣向であるが物語の中の風を実際に感じているような気分になる作品になっている。

人から妖怪から何か分からない者まで集まって、賑やかに綴られる食事風景も魅力のひとつだ。

この賑やかな食事の描写で登場人物たちが顔を合わせて会話するシーンには特有の温かみがあり、種族に捉われず交流する不思議な魅力がある。

夕士は高校生なので学校でのエピソードも沢山あり、文化祭にクラブ活動・教室での会話など…その中でトラブルに見舞われる事もある。

個性的かつ素敵な出会いもあれば逆もしかりだ。

しかし、この作品は高校生が妖怪を退治したりする派手な非現実では無く、あくまでも不思議が日常に潜んでいるという世界観。

青春を彷彿とさせる夕士の不思議な日常はキラキラしていて、いつ読んでも私を魅了して止まない。

不思議な世界を覗いてみたいあなたには是非おススメする。

最後に

妖怪アパートの幽雅な日常は漫画にもなっているし、アニメ化もされている。

全て網羅した私だが、やはり小説が1番好きだった。

アニメや漫画を貶しているのでは無く、どうしても省かれてしまう心理描写などが寂しく感じたのだ。

とは言え作品は素晴らしい。

筆者の香月日輪(こうづきひのわ)さんは2014年51歳の若さでこの世を去ってしまったので、新作が増える事は無い。

しかし、他にも『地獄堂霊界通信』や『大江戸妖怪かわら版』など不思議を描く作品を多数残している。

妖怪アパートの幽雅な日常も『ラスベガス外伝』『妖怪アパートの幽雅な人々』などの作品ファンに嬉しい作品を残してくれた。

私は学生時代にこの作品と出会い夢中になった。

新刊が図書室に入庫すると予約して誰よりも早く読んだものだ。

しかし、完結を見届ける前に卒業。

19歳の夏、どうしても読みたくなって買い揃えて今に至る。

ずっと手元に置いておきたい、そんな世界に出会えて私は幸せだ。

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