突然だが、あなたの家のトイレにドアノブは付いているだろうか。
引き戸だった場合でも取手部分の凹みはある筈だ。
我が家のトイレのドアノブは、入居当初からずっと不安定にグラグラしていた。しかし、確かに付いていた。
いくら不安定だとしても、ドアノブが付いているなら特に不自由は無い。
日常生活を送っている中で猛烈に頭から離れない程困っている訳ではないし、使用時のみ気になる程度であった。
日に日にグラグラが大きくなっていたけれど、見て見ぬ振りをして……、そんなある日トイレのドアノブが目の前でポロッと取れた。
小さな個室で用を足していた私の目の前で唐突に事切れたドアノブは、トイレマットの上に鈍く重たい音を立ててゴロンと転がった。
まるで咲いていた花が儚く散るが如く、あまりにも呆気なく床に転がったものだから一瞬事態を飲み込めずただただドアノブを見詰めた。
ポカンと呆けたまま次いでトイレの扉を見遣れば、ドアノブが元収まっていた場所にはポッカリと穴があいていて謎の金属棒が飛び出していた。
一応その棒の様子がこちら……。
今迄ドアノブの内部を見た事は無かったが、恐らくこの金属棒にドアノブをガッチャンコするのだろうと推測する事は出来た。
未だ足元に転がるドアノブ……………と、とりあえず挿してみよう……。
…………駄目だ……全然嵌った感覚が無い……。
そこで私は初めて気が付いたのだ、ドアノブを回せないという事は扉が開かないという事に。
私はドアノブが床に落ちたその時からトイレという小さな個室に閉じ込められていたのである……。
あなたは聞いた事があるだろうか、トイレでの閉じ込め事故は日本中結構な頻度で起きている。
玄関程頑丈では無く使用頻度の高いトイレのドアノブは劣化からの故障が起きやすいそうで、一人暮らしの人なんて最悪死亡事故まで起きているのだ。
以前からその情報が頭にあった私は、一瞬にして自身の置かれた状況に恐怖した。
訳もわからず「ひぃ……ひぃ……!」なんて言いながら挿しても回らないドアノブをただガチャガチャ鳴らしている絶望!!!
更にルームシェア相手の親友ちゃんは、絶賛お仕事中で帰宅時間にはまだまだ程遠く私は静かに天を仰いだ。
絶望していても時は過ぎる………こうなってしまったなら後はパワーとパッションしかない!!!!!
大体既に壊れているんだし、扉が壊れてしまっても構わない。くらいの果敢な脳筋プレーを繰り出す。
怒れる神が如くドアノブをガチャガチャガンガン鳴らしながらぶっ叩いている内に扉は勢い良く開いた。
………やはりこの世を制するのはパワー!!!!(笑)
いや、私の運が良かったんだと思う。
今これを読んでいるあなた!トイレに閉じ込められた時誰かに連絡が取れるように必ずスマホを持ち込もう!!実際に閉じ込められ絶望したmamuとの約束だぞ!!
……という訳で、見事にドアノブがぶっ壊れてしまったので管理会社さんに連絡をした。
そして1週間程でやって来た管理会社さんの言う事にゃ「劣化です」「部品も古い型です」「取り寄せるのに時間がかかります」。
「一応問い合わせるので持って行きますね。」と言って易々ドアノブを取り外した管理会社さんは短時間で去っていた。